コラム

子どもに与えるもの

乳幼児期の発達の特徴として,次の発達段階へ少しずつできるようになっていくのではなく、突然の変化として現れることが挙げられます。例えば、1歳を過ぎた頃、ある日突然立ち上がってみたり、「ママ」とか「まんま」と言葉を発してみたりすることがあります。つまり、「それまでできなかったことが、突然できるようになった」ように見えることです。このような現象を『カタストロフィー現象』と呼びます。

 

初めて「ママ」と言葉を発した子は、それまで何もしていなかったのでしょうか。答えは「否」ですね。それまでの間に、親はお世話をしながら「おなかがすいたのね」「おむつをかえましょうね」と何度も何度も声をかけ、子はその声を聞いて音を覚えて意味を理解していきます。以前、生まれたばかりの人間の喉は、猿と同じつくりをしていて、生後一年間で人間特有のつくりになっていくという話を伺ったことがありますが、そのことを考えると「言葉を発したくても発することができない」ということが事実のようですね。言葉を発することができる要素がすべて備わるまでの間に、子どもは内に力を蓄えていっているのです。「力をためてためて出来る」ことの繰り返しです。乳幼児期の発達は、坂道を登っていくのではなく、階段を上っていくようなイメージを持っていただくと分かりやすいかもしれません。

 

以前「与えるものは、物だけでなく温かい心も必要なのです」という言葉に出会って、深く頷いたことがあります。子どもの発した言葉に返してあげる。子どもが発見したことを一緒に喜んであげる。きっとできるようになると信じて待つ我慢強さ。大切なことは、どんな時にも「言葉」と「心」をかけてあげることと強く思うのです。(認定こども園川辺幼稚園 園長 三木隆朋)