大学では工学部で機械工学を学び、大学院では海洋における機械制御技術の活用について研究していた私がまさか、幼稚園で働くことになるとは思ってもみませんでした。
感情を持つかのように愛くるしく動くSONYのaiboやトレイを持ちながら二足歩行をする本田技研工業のASIMOを見て、機械制御という分野への興味と魅力、今後の可能性を感じた私は、大学で機械工学について勉強しようと心に決めたのでした。
学生時代の私は、ホームページをメモ帳からタグ打ちして作り、思い通りに表示されたのを確認してにんやりしたり、プログラム言語を使ってプログラムを組み思い通りに実行できるとこれまたにんやりしたり、と少々マニアックなことに面白さや楽しさを感じながら過ごしていました。
そんな私がご縁を頂き幼稚園の中で働き始めて早くも10年が経ちました。幼稚園と保育園の違いすらわからない状態の人間がいきなり幼稚園のスタッフとして働き始め、当時の先生達もさぞ困惑しただろうと思い返します。「子ども達が14時30分に帰るのに先生達ってなんですぐに帰らないんだろう?」「子ども達が帰った後に遅くまで先生達は一体、何を話し合っているんだろう」と、今思えば大変失礼で素朴な疑問を抱きつつも、先生達の仕事への姿勢の中から、保育は事前の準備や振り返りが大切なこと、保護者や地域の方との緊密な連携が必要なこと、先生同士との情報交換や共有が大事であることなどを少しずつ学んでいきました。また、真摯に仕事に臨む先生たちの姿を見て刺激を受けながら、自分にも何か貢献できることがないかと手探りながら自分なりに考えつつ仕事をしてきたのを思い出します。
幼稚園で勤めて何年か経つと、乳幼児期にとって良い教育・保育のあり方についてあらためて考えるようになりました。そのとき思い出したのが大学の時に学んでいた機械制御のことです。私の所属していた研究室では、いわゆる「教師なし学習」という、機械が自ら学習するアルゴリズムの汎用化に向けた研究を行なっていました。「教師なし学習」は正解を示さずに機械にデータの分類をさせ、機械自身で規則性や共通点などを見つけ出す手法です。子どもが教えられたわけでもないのに2つのものを指差し「いっしょ」と言う姿を見たとき、まさに、教えられずとも自ら物事の関連性や規則性を感じ取り、自分を取り囲む世界を理解しようとする、有能な学び手としてのエネルギーのようなものを感じ、昔していた研究のことを思い出したのです。
もちろん、機械の学習はいくら「教師なし学習」とは言え、プログラミングで指示されたから学習をしているわけです。しかし当然ながら、子ども達はそうはいきません。指示されたから、決められているからと言われても、それをやるかどうかは個人の意思次第です。
好きだから、楽しいから、面白いからこそやろうとする。遊びはそもそも好きなものだし、楽しいものだし、面白いもの。そんなポジティブな動機に支えられた遊びは継続し、遊びの中から、なぜだろう、試してみよう、調べてみよう、誰かに聞いてみよう、もっとうまくやれないかな、といった思考や工夫、諦めずに取り組む姿勢などが培われていくのだと信じています。
指示されたから、決められたから、ではない動機こそが人と機械の学習の違いなのだと思っています。好き、楽しい、面白い。そんなポジティブな気持ちで溢れるようなきっかけや環境作りをしていくことが、機械には担えない創造的で想像力あふれる未来を切り拓く人財を育成していくことに繋がるのだと信じています。
認定こども園せんだい幼稚園 田原 慎也